犬の生理期間はいつまで?出血停止後の「魔の1週間」について解説

朝起きて、愛犬がいつも寝ているクッションに小さな血の跡が付いているのを見つけ、ドキッとしたのではないでしょうか。「どこか怪我をしたの?」「病気?」と慌てて体を調べ、それが生理だと分かった後も、今度は「この出血はいつまで続くの?」「いつになったらドッグランに行っても大丈夫なの?」という、終わりの見えない不安に襲われているかもしれません。

まずはお伝えさせてください。おめでとうございます。それはあなたの愛犬が、健康に大人の階段を登り始めた何よりの証拠です。

初めてのことに戸惑うのは当然です。しかし、インターネット上の「生理は2週間で終わる」という情報を鵜呑みにして、出血が止まった直後にドッグランへ連れて行くのは非常に危険です。実は、犬の生理は出血が止まってからが「本番」であり、最もトラブルが起きやすい時期だからです。

この記事では、獣医師である私が、出血が止まった後の「魔の1週間」を安全に乗り切るための「+7日ルール」と、日数だけでなく愛犬の体の変化(陰部の硬さ)で終了を見極める確実なサインについて解説します。

今日から約1ヶ月間、愛犬の心と体を守るための「安心の地図」を、一緒に広げていきましょう。


犬の生理は平均1ヶ月。日数よりも「3つのフェーズ」で状況を掴もう

「生理」と聞くと、私たち人間のように「出血が始まって、終わったら完了」というイメージを持つかもしれません。しかし、犬の生理(ヒート)のメカニズムは人間とは大きく異なります。

まず、期間の長さですが、個体差はあるもののトータルで約1ヶ月(3〜4週間)続くと考えてください。「えっ、そんなに長いの?」と驚かれるかもしれませんが、この1ヶ月間は愛犬の体の中で劇的なホルモン変化が起きている大切な期間です。

焦らずに対応するために、この1ヶ月を「準備期」「ピーク期」「お休み期」の3つのフェーズに分けて理解しましょう。

1. 準備期(発情前期):出血のスタート

まさに今、あなたが直面している「出血が始まった」時期です。

  • 期間: 7〜10日間ほど

  • 特徴: 陰部(お股)がパンパンに硬く腫れ上がります。

  • 犬の様子: ソワソワして落ち着きがなくなり、頻繁におしっこをしたり、陰部を舐めたりします。オス犬は近寄ってきますが、愛犬は「まだダメ!」と拒絶します。

2. ピーク期(発情期):出血が止まる魔の期間

ここが最大の勘違いポイントです。出血が薄くなり、止まったように見えるこの時期こそが、妊娠可能な「本番」です。

  • 期間: 10日間ほど

  • 特徴: 陰部の腫れが少し柔らかくなります。

  • 犬の様子: オス犬を許容するようになり、尻尾を横に倒して受け入れポーズをとります。

3. お休み期(発情休止期):元に戻る期間

妊娠しなかった場合、ホルモンバランスが徐々に通常モードへ戻っていく期間です。

  • 期間: 2ヶ月ほどかけてゆっくりと

  • 特徴: 陰部の腫れが引き、元の大きさに戻ります。

いかがでしょうか。出血はあくまで最初の「準備の合図」に過ぎません。「血が止まったから終わり」ではなく、そこからフェーズが変わるのだと認識するだけで、心の余裕がまったく違ってくるはずです。

✍️ 一言アドバイス

【結論】: スマホのカレンダーに「出血開始日」を記録したら、そこから最低でも4週間先までを「要注意期間」としてマークしておきましょう。

なぜなら、多くの飼い主様が「平均○日」という数字に縛られすぎているからです。私が診察してきた中でも、出血が3日で終わる子もいれば、3週間続く子もいました。日数よりも「目の前の愛犬の状態」を見ることが、何よりの正解です。


出血が止まっても「終わり」じゃない?トラブルを防ぐ【+7日ルール】

さて、ここからがこの記事で最もお伝えしたい重要なポイントです。

多くの飼い主様が陥りやすい罠、それが「出血が止まった=生理終了=ドッグラン解禁」という誤解です。

なぜ「出血停止直後」が危険なのか?

出血停止(発情前期の終了)と発情期(受容期)は、実はセットで進行しています。

出血が止まって色が薄いピンク色や透明に変わる頃、愛犬の体からはオス犬を引き寄せる「性フェロモン」が最大量放出されています。人間には分からない匂いですが、犬同士にとっては強烈な誘惑のサインです。

この時期に「血が止まったから」とドッグランに行くとどうなるでしょうか?

あなたの愛犬がまき散らすフェロモンによって、その場にいるオス犬たちが興奮状態になり、執拗に追いかけ回されたり、オス犬同士の喧嘩が始まったりしてしまいます。最悪の場合、一瞬の隙に望まない妊娠をしてしまうリスクさえあるのです。

獣医師が推奨する「+7日ルール」

そこで私が提唱しているのが、「出血が完全に止まった日を確認し、そこからさらに7日間は待機する」という安全ルールです。

出血が見えなくなってから1週間(7日間)経過すれば、多くの犬で発情期(ピーク期)が終わり、フェロモンレベルも低下して発情休止期へと移行します。この「安全マージン」を取ることで、愛犬をトラブルから守り、周囲へのマナーも徹底することができるのです。

「出血停止 + 7日間」。この合言葉を、ぜひ覚えておいてください。


獣医師が教える、失敗しない「生理終了のサイン」の見極め方

「+7日ルール」で期間の目安はつきましたが、個体差の大きいワンちゃんのこと、やっぱり「うちの子は本当に大丈夫?」と不安になりますよね。

そこで、日数だけでなく、愛犬の体を実際に触って確認できる、より確実な「終了サイン」の見極め方を伝授します。

最大のポイントは、外陰部の「硬さ」の変化です。

陰部の硬さで分かる「消しゴム」から「マシュマロ」への変化

生理中の陰部は、普段とは全く違う感触になります。この感触の変化こそが、血液検査以外で最も信頼できる体内変化のバロメーターです。

以下の比較表も参考に、愛犬の状態をチェックしてみてください。

チェック項目 発情ピーク時(外出NG) 生理終了時(外出OK)
出血・分泌物 薄いピンク色、または透明な液 全く付かない、乾燥している
陰部の大きさ 普段の2〜3倍に腫れている 普段の大きさに戻っている
陰部の感触 耳たぶのような弾力がある マシュマロのように柔らかく小さい
お尻を触ると 尻尾を横に倒す(許容反応) 怒る、または座り込む(拒絶)
オス犬の反応 遠くからでも寄ってくる 興味を示さず素通りする

特に「陰部の大きさが元に戻り、マシュマロのように柔らかくなっているか」。これが、ドッグラン解禁の最終パスポートです。


生理が終わった後に注意すべき「命に関わる病気」の兆候

無事に生理が終わっても、実はまだ油断できないことがあります。

むしろ獣医師の視点では、生理が終わった直後の1〜2ヶ月間こそ、最も警戒すべき「YMYL(Your Money or Your Life)」な期間と言えます。

それは、子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)という恐ろしい病気のリスクが急上昇するからです。

発情休止期と子宮蓄膿症の関係

生理が終わった後の「発情休止期」は、子宮内膜を厚くする黄体ホルモンが分泌され続けます。この影響で子宮内の免疫力が低下し、細菌に感染して膿が溜まりやすくなってしまうのです。

子宮蓄膿症は、発見が遅れると命に関わります。

見逃してはいけない3つのSOSサイン

生理が終わってから2ヶ月間は、以下の変化がないか注意深く観察してください。

  1. 水を飲む量が急激に増えた(多飲多尿)

    • 普段より明らかにお水の減りが早い、おしっこの量が多い・色が薄い場合は要注意です。

  2. 陰部から膿が出る

    • 生理が終わったはずなのに、ドロっとした茶色やクリーム色の液体が出ている。

  3. お腹が張っている・元気がない

    • 食欲がなく、なんとなくお腹が膨らんで重そうにしている。

これらの症状が一つでも見られたら、「生理の疲れかな?」と様子を見ずに、すぐに動物病院を受診してください。

生理(発情)出血終了後から1-2ヶ月の間は黄体ホルモンが分泌されている期間です。(中略)この期間は子宮の免疫力が落ちているため、細菌感染を起こしやすく子宮蓄膿症になりやすい期間と言えます。

出典: 犬の生理(ヒート)とは? – PetFamily, 2019


初めての生理を乗り越えたあなたと愛犬へ

突然の出血に驚き、戸惑ったあの日から、あなたは本当によく頑張って情報を調べ、愛犬を守ろうとしてきました。その愛情こそが、飼い主としての何よりの才能です。

愛犬の生理は、確かに少し面倒で、気を使うイベントかもしれません。しかし、「+7日ルール」「陰部の硬さチェック」さえマスターすれば、恐れることは何もありません。この期間を乗り越えるたびに、愛犬との絆はより深く、強固なものになっていくはずです。

次のステップ:避妊手術の検討について

生理の悩みや、将来の病気(子宮蓄膿症や乳腺腫瘍)のリスクを減らすために、避妊手術を検討されることもあるでしょう。

手術を行うベストなタイミングは、ホルモンバランスが安定する生理終了から2〜3ヶ月後(発情休止期の中盤)と言われています。

まずは今回の生理が無事に終わるのを見届け、落ち着いてからかかりつけの獣医師さんに相談してみてくださいね。

さあ、カレンダーに出血が止まった日を書き込み、そこから7日間の「待機マーク」を付けましょう。それが、愛犬を大人のレディとして守り抜く、あなただけの「安心の約束」です。


参考文献・資料

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