犬インフルエンザの症状と受診の目安|30秒でできる緊急度チェックリスト

昨晩から愛犬が「カッカッ」という乾いた咳を繰り返している。今朝になると鼻水も出ているようで、なんだか元気がない気がする…。

「もしかして、今流行っているインフルエンザ?」

ニュースで人間のインフルエンザ流行を耳にしている時期だけに、目の前の愛犬の苦しそうな姿を見て、心臓が締め付けられるような不安を感じているのではないでしょうか。

愛犬家として、そして獣医師としてお伝えしたいのは、「あなたのその直感は、愛犬を守るための最大の武器である」ということです。

犬インフルエンザは非常に感染力が強い病気ですが、同時に、飼い主さんが初期のサインを見逃さず、適切なタイミングで行動すれば、十分に回復が見込める病気でもあります。逆に言えば、最も怖いのは「ただの風邪だろう」と自己判断してしまい、肺炎という取り返しのつかない状態まで悪化させてしまうことです。

この記事では、獣医師である私の経験に基づき、「今すぐ病院へ行くべきか」を自宅で30秒で判断できるチェックリストを提供します。

専門的な病名の知識よりも、今目の前にいる愛犬の「呼吸」を見てあげてください。その小さな胸の動きに、すべての答えがあります。まずは深呼吸して、一緒に確認していきましょう。


ただの風邪?犬インフルエンザ?飼い主が最初に見るべき「SOSのサイン」

愛犬が咳をしている時、多くの飼い主さんは「風邪かな?」「何か喉に詰まったのかな?」と考えます。実は、犬の世界にも「ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)」と呼ばれる、いわゆる「犬風邪」が存在します。

しかし、犬インフルエンザと一般的なケンネルコフには、飼い主さんが見分けるべき決定的な違いがあります。それが「全身状態の悪化スピード」です。

見逃してはいけない初期症状

犬インフルエンザの初期症状は、人間のそれと非常によく似ています。

  • 乾いた咳: 「カッカッ」「ケッケッ」という、喉に何かが張り付いたような咳。

  • 鼻水: 最初は透明ですが、二次感染を起こすと黄色や緑色のドロっとしたものに変化します。

  • くしゃみ: 連続して出ることがあります。

  • 発熱: 人間のように体温計を脇に挟むのは難しいため、「耳や足先がいつもより熱い」「元気がない」といった様子で判断します。

ここで重要なのは、これらの症状が出た時に**「どれくらい元気があるか」**です。ケンネルコフの場合、咳は出ていても食欲や元気はあることが多いですが、犬インフルエンザ、特に重症化しやすいケースでは、急激に元気がなくなり、ぐったりとして動かなくなる傾向があります。

✍️ 一言アドバイス

【結論】: 「数日様子を見よう」は禁物です。特に咳が止まらない場合は、その日のうちに呼吸数を確認する習慣をつけてください。

なぜなら、多くの人が「食欲があるから大丈夫」と判断しがちですが、犬は本能的にギリギリまで食事を摂ろうとする生き物だからです。食欲が落ちた時点では、すでに病状が進行している可能性が高いのです。


ケンネルコフ(犬風邪)との違いと、見逃せない重症化の兆候

ここで、よく混同されるケンネルコフと犬インフルエンザの違いを整理しておきましょう。この二つは症状が似ていますが、原因となるウイルスが異なります。そして何より怖いのが、犬インフルエンザは高熱と重度の肺炎を引き起こすリスクが高いという点です。

以下の表で、愛犬の症状がどちらに近いか確認してみてください。

📊  犬インフルエンザとケンネルコフ(犬風邪)の症状比較

特徴 犬インフルエンザ ケンネルコフ(一般的な犬風邪)
咳の特徴 湿った咳、または乾いた激しい咳 「カッカッ」という乾いた咳
発熱 39.5℃〜41℃の高熱が出やすい 微熱程度、または平熱
食欲・元気 急激に消失し、ぐったりする 元気・食欲はあることが多い
鼻水 膿のような粘り気のある鼻水 透明でサラサラしていることが多い
重症化リスク 肺炎への移行リスクが高い 通常は自然治癒することもある

犬インフルエンザの最大のリスクは「二次性肺炎」です。 ウイルスによってダメージを受けた気管支に細菌が入り込み、肺炎を起こすと、命に関わる事態になります。

では、どうなったら「肺炎」を疑うべきなのでしょうか? 次のセクションで、誰でもできる具体的なチェック方法をお伝えします。


【UVP】30秒で完了「受診緊急度判定」チェックリスト

「病院へ行くべきか、もう少し家で様子を見るべきか…」

その迷いを断ち切るために、私たち獣医師が診察室で真っ先に確認しているポイントをリスト化しました。愛犬を安静にさせた状態で、以下の3点をチェックしてください。

一つでも当てはまる場合は、緊急性が高い状態です。迷わず動物病院へ連絡してください。

 

なぜ「呼吸数」がそれほど重要なのか?

リストの中で最も客観的で信頼できる指標が**「安静時呼吸数」**です。

通常、健康な犬の安静時呼吸数は1分間に15〜30回程度です。これが40回を超えている場合、肺での酸素交換がうまくいっていない、つまり「肺炎」を起こしている可能性が極めて高いことを示唆しています。

安静時呼吸数と二次性肺炎の関係は、まさに「早期警戒指標」です。 熱や食欲は個体差がありますが、呼吸数の異常は嘘をつきません。愛犬が寝ている時、胸の上がり下がりを1分間数えてみてください。それが愛犬からの「苦しい」という無言のメッセージかもしれません。


受診前にこれだけは!獣医師に伝えるべき「症状メモ」と家庭での応急処置

「病院へ行こう!」と決めたら、出発前の準備が大切です。慌てて飛び出す前に、以下の情報を整理しておくと、診察がスムーズに進み、より的確な診断につながります。

診察室で役立つ「症状メモ」

獣医師は、今の状態だけでなく「経過」を知りたがっています。スマホのメモ機能で構いませんので、以下を記録してください。

  1. いつから症状が出たか?(昨日の夜、今朝の散歩後など)

  2. 咳の頻度と種類(1時間に何回くらい? 乾いた音か湿った音か?)

  3. 体温の変化(耳や足先が熱かったか?)

  4. 呼吸数(先ほど計測した1分間の回数)

  5. ワクチン接種歴(混合ワクチンの接種日と種類)

  6. 接触歴(ドッグランやペットホテル利用の有無)

【重要】家庭で絶対やってはいけないこと

ここで、命に関わる警告を一つだけさせてください。

⚠️ 絶対禁止:人間用の風邪薬を飲ませること

「少し熱があるみたいだから」「咳止めになるかも」と、人間用の市販薬(特にアセトアミノフェンを含むもの)を犬に与えることは、絶対にやめてください。

人間用風邪薬と犬の体質は相性が最悪です。 犬は特定の成分を分解・代謝する能力が低く、少量でも中毒を起こし、最悪の場合は死に至ります。良かれと思ってしたことが、愛犬の命を奪うことになりかねません。


【FAQ】人間にうつる?ドッグランはいつから?

最後に、飼い主さんからよくいただく質問にお答えします。

Q1. 犬インフルエンザは人間にうつりますか?

A. 現時点では、人間への感染報告はありません。

犬インフルエンザウイルス(H3N8型やH3N2型)は、人間インフルエンザウイルスとは型が異なります。しかし、ウイルスは変異する可能性があるため、過度な接触(口移しなど)は避け、触った後は必ず手洗いをしましょう。

Q2. 多頭飼いなのですが、他の犬にうつりますか?

A. 非常に高い確率で感染します。

犬インフルエンザの感染力は極めて強く、免疫のない犬が同居している場合、ほぼ100%感染すると言われています。

ここで注意すべきは「間接感染」です。ウイルスは、咳による飛沫だけでなく、飼い主さんの手や衣類、食器を介しても広がります。

間接感染と飼い主の手・衣類は、意外な「運び屋」の関係にあります。 発症した犬を隔離するのはもちろんですが、お世話をした後は着替えと手洗いを徹底することが、他の愛犬を守る唯一の方法です。

Q3. ドッグランやお散歩はいつから再開できますか?

A. 症状が治まってから最低でも2週間、理想的には3週間は控えましょう。

見た目が元気になっても、ウイルスは体内に残り、排出し続けている可能性があります。他のワンちゃんにうつさないためにも、獣医師の許可が出るまでは自宅での療養をお願いします。


まとめ:あなたの素早い判断が愛犬を救う。まずは呼吸を数えてみてください。

愛犬の咳を聞くたびに胸が痛むその気持ち、痛いほどわかります。

でも、闇雲に怖がる必要はありません。あなたには今、「安静時呼吸数」という客観的な判断基準があります。

  1. 愛犬が寝ている時や落ち着いている時を見計らう。

  2. 胸の動きを見て、1分間の呼吸数を数える。

  3. 40回以上なら、すぐに動物病院へ。

たったこれだけの確認が、愛犬を肺炎の危機から救う第一歩になります。

「もしかしたら気にしすぎかも…」と遠慮する必要はありません。何もなければ「よかったね」で済む話です。愛犬の小さな変化に気づけるのは、世界でただ一人、飼い主であるあなただけなのですから。

さあ、この記事を読み終えたら、まずは愛犬のそばに行って、その呼吸を優しく見守ってあげてください。


参考文献

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