子犬が咳をするけど元気…様子見で大丈夫?「今夜の判断基準」と「動画撮影」の重要性

念願のワンちゃんをお家に迎えて数週間。ようやく新しい環境に慣れてきたかなと思った矢先に、突然「カッカッ」と喉に何かが詰まったような乾いた音を聞いて、動揺していませんか?

「もしかして誤飲? それとも悪い病気?」 「夜間救急に走るべき? でも、ご飯も食べるし元気そうだし…」

初めての子犬育てで、このようなジレンマに陥る飼い主さんは本当に多いです。深夜にその音を聞けば、パニックになるのは当然のことです。

臨床の現場に立つ獣医師として、結論からお伝えします。 もし愛犬に食欲があり、舌の色が綺麗なピンク色をしているなら、今すぐ夜間救急に駆け込む必要性は低いです。

しかし、それは「何もしなくていい」という意味ではありません。実は、動物病院に連れてくると、緊張でピタリと咳が止まってしまう子が非常に多いのです。だからこそ、今のお家での様子を「動画」に残すこと、明日確実な治療を受けるための最大の準備になります。

この記事では、迷える飼い主さんのために、「今夜の緊急度を見極める基準(トリアージ)」と、獣医が診断する際に喉から手が出るほど欲しい「決定的な証拠動画の撮り方」について解説します。


【30秒チェック】今すぐ救急に行くべき?危険なサインの見分け方

「元気はあるけれど、様子を見ていて本当に手遅れにならないか?」 この不安を解消するために、まずは客観的な基準で愛犬の状態をチェックしましょう。獣医療の世界では、治療の優先順位を決めることを「トリアージ」と呼びますが、家庭でもチェックすべきポイントは「舌の色(チアノーゼ)」「呼吸の苦しさ」の2点に集約されます。

1. 舌と歯茎の色をチェック(チアノーゼの有無)

最も重要なサインは、血液中の酸素不足を示す「チアノーゼ」です。愛犬の口をめくり、舌や歯茎の色を確認してください。

  • サーモンピンク(通常): 正常です。酸素は足りています。

  • 紫色・青白い・白っぽい: 危険信号(チアノーゼ)です。 肺や心臓に深刻なトラブルが起きている可能性が高いため、たとえ元気そうに見えても、直ちに夜間救急を受診してください。

2. 呼吸の仕方をチェック

次に、愛犬がリラックスしている時の呼吸を見てください。

  • 横になって眠れている: 緊急性は低いです。

  • 座ったまま・立ったまま寝ようとする: 横になると苦しいため、体勢を維持しようとしています。これは呼吸困難のサインです。

  • 肩で息をしている / 口を大きく開けてあえいでいる: これも呼吸困難の徴候です。

✍️一言アドバイス

【結論】: 判断に迷ったら、「おやつ」を見せてみてください。

呼吸が本当に苦しい時は、どんなに食いしん坊な子でも食べる余裕がなくなります。もしおやつを見て「ちょうだい!」と飛びついてくるなら、少なくとも今、酸欠で倒れるような緊急事態ではありません。この反応は、私たち獣医も重症度を見極める一つの指標にしています。


「カッカッ」は風邪?それとも逆くしゃみ?音と動作で見分けるコツ

「咳だと思って病院に行ったら、生理現象だから治療不要と言われた」 実はこれ、子犬の診察で非常によくあるケースです。ここで知っておきたいのが、病気である「咳(Cough)」と、生理現象である「逆くしゃみ(Reverse Sneezing)」の違いです。

この2つは音や見た目が似ていますが、体のメカニズムは正反対の関係にあります。

音と動作の違い

  • 咳(風邪・ケンネルコフなど)

    • メカニズム: 肺や気管から異物を**「吐き出そう」とする(呼気)**動き。

    • 音: 「カッカッ」「ケッケッ」という乾いた音。最後に「ゲーッ」と痰を吐くような仕草をすることもあります。

    • 特徴: 喉に何かが詰まったような音がします。

  • 逆くしゃみ(生理現象)

    • メカニズム: 鼻の奥の刺激を取り除こうと、空気を**「吸い込もう」とする(吸気)**動き。

    • 音: 「ズーズー」「ブタブタ」という、鼻を鳴らすような連続した音。

    • 特徴: 首を長く伸ばし、立ったままフリーズしたような姿勢で、発作的に数秒〜1分程度続きます。

咳は「外に出す」動き、逆くしゃみは「中に吸う」動きと覚えてください。逆くしゃみであれば、基本的には治療の必要はなく、優しく喉を撫でてあげれば治まります。しかし、初めて見る飼い主さんがこれを見分けるのは至難の業です。だからこそ、次の「動画撮影」が重要になってくるのです。


明日、獣医に見せるために。「診断に役立つ咳動画」の撮り方

トリアージの結果、「今夜は自宅待機」と決めたなら、飼い主さんには重要なミッションがあります。それは「証拠の保全」です。

動物病院という場所は、犬にとって緊張の連続です。アドレナリンが出ると気管が拡張し、一時的に咳が止まってしまうことがよくあります。「家ではすごく咳をするんです」と言葉で説明されても、実際の音を聞かない限り、獣医師は「ケンネルコフ」か「逆くしゃみ」か、あるいは「心臓病の咳」かを確定診断できません。

そこで、以下のポイントを押さえた動画をスマホで撮影してください。これさえあれば、私は診察室で咳が出なくても、9割方の診断をつけることができます。

獣医が喜ぶ動画撮影・3つのポイント

  1. 音をクリアに録る(テレビを消す)

    • 咳の診断において「音」は情報の宝庫です。「乾いた音(カッカッ)」か「湿った音(ゼロゼロ)」かで、病気の場所や進行度がわかります。撮影時はテレビや音楽を消し、環境音を減らしてください。

  2. 全身をフレームに入れる

    • 顔のアップだけでなく、**「全身」**を撮ってください。咳をしている時にお腹がどう動いているか、背中を丸めているか、首を伸ばしているか。これらの「姿勢」が、咳と逆くしゃみを区別する決定打になります。

  3. 「咳の前後」も含める

    • 咳き込んだ瞬間だけでなく、「何をしている時に出たか(寝起き?興奮した後?)」や「咳き込んだ後、すぐにケロッとしているか、ぐったりしているか」も重要な情報です。

✍️ 一言アドバイス

【結論】: 動画は「1回」だけでなく、状況を変えて「数回」撮れるとベストです。

「寝ている時の咳」と「遊んでいる時の咳」の両方があれば、重症度の判定がより正確になります。上手く撮れなくても構いません。ブレていても、音さえ入っていれば診断の大きな助けになりますので、遠慮なく撮影してください。


なぜ子犬は咳をするの?「ケンネルコフ」について知っておくべきこと

「私がちゃんと見ていなかったから、風邪をひかせてしまった…」 そんな風に自分を責めないでください。子犬、特にお家に来て間もない時期の咳の多くは、**「ケンネルコフ(伝染性気管気管支炎)」**と呼ばれる感染症によるものですが、これは子犬にとって「通過儀礼」のような病気です。

子犬の咳=ほぼ「ケンネルコフ」

ケンネルコフは、その名の通り「犬舎(Kennel)の咳(Cough)」という意味です。ペットショップやブリーダー元など、多くの子犬が集まる場所では非常に感染力が強く、ウイルスや細菌(ボルデテラ菌など)が複合的に感染して起こります。

環境が変わったストレスや、移動の疲れで免疫力が下がったタイミング(お迎えから1〜2週間後)で発症するケースが非常に多く、どんなに気をつけていてもかかってしまうことがあります。

「元気なら放置」がNGな理由

「風邪なら放っておけば治るでしょ?」と思うかもしれませんが、ここが人間の風邪と違う点です。 成犬であれば自然治癒することもありますが、免疫が未熟な子犬の場合、こじらせるとあっという間に「肺炎」に進行するリスクがあります。

「ケンネルコフは、高い確率でかかるけれど、早期に治療すれば怖くない病気」です。逆に言えば、元気がある今のうちに抗生剤や炎症止めで治療を始めれば、数日で良くなることがほとんどです。「元気だから」と放置せず、早めに受診することが、愛犬を守る最短ルートです。


よくある勘違い・NG行動 (FAQ)

最後に、焦っている飼い主さんがやってしまいがちなNG行動について、注意喚起しておきます。

Q. 人間の風邪薬を少しだけ飲ませてもいいですか?

A. 絶対にやめてください。命に関わります。 人間用の市販薬に含まれる解熱鎮痛成分(アセトアミノフェンなど)は、犬にとっては中毒を引き起こす危険な物質です。肝不全や貧血を起こし、最悪の場合死に至ります。「子供用シロップなら大丈夫」というのも大きな間違いです。自己判断での投薬は絶対にNGです。

Q. 喉に骨か何かが刺さっているような音がするのですが?

A. 誤飲の心当たりがないなら、それは「咳」です。 ケンネルコフの咳は、喉に異物が詰まった時に吐き出そうとする仕草とそっくりです。もし、おもちゃの欠片が無くなっている等の明らかな誤飲の証拠がない限り、無理に口をこじ開けて喉の奥を見ようとしないでください。子犬に恐怖心を植え付け、噛まれる原因になります。


まとめ:自己判断での薬はNG。温かくして明日一番で病院へ

愛犬の苦しそうな咳を見るのは辛いものです。しかし、ここまでのチェックで「チアノーゼがなく、元気がある」ことが確認できたなら、今夜は慌てて動く必要はありません。

今夜の過ごし方:

  1. 保温と加湿: 部屋の温度を快適に保ち、加湿器などで湿度を50〜60%に上げてください。乾燥は咳の大敵です。

  2. 安静: 興奮すると咳が出やすくなります。激しい遊びは控え、ケージでゆっくり休ませましょう。

  3. 動画撮影: 咳が出たら、慌てずにスマホで撮影してください。

あなたは今、愛犬のためにできる最善のこと(トリアージと観察)をしています。どうか自信を持ってください。そして明日の朝一番で、撮影した動画を持って動物病院へ行きましょう。早期発見・早期治療ができれば、子犬の咳は決して怖いものではありません。

[参考文献]

タイトルとURLをコピーしました