「さっき散歩で済ませたばかりなのに、また?」
「いつもは朝晩の2回なのに、今日はもう4回目……」
今、スマホを握りしめているあなたは、愛犬のトイレシートを片付けながら、そんな不安に襲われているのではないでしょうか。特に、便が少し緩かったり、いつもより量が少なかったりすると、「もしかして病気の前兆?」と悪い予感ばかりが頭をよぎってしまいますよね。
でも、どうか一度深呼吸をしてください。愛犬の異変にいち早く気づけたこと、それはあなたが素晴らしい飼い主である何よりの証拠です。
実は、犬の排便回数が増える理由は病気だけではありません。食事の消化率や環境の変化など、病気以外の要因で回数が一時的に増えることは、臨床現場でも非常によくあるケースなのです。
この記事では、獣医師である私が診察室で飼い主さんにお伝えしている「病院に行くべきか迷った時の判断基準(3点観察法)」を、誰でも自宅で実践できるように分かりやすく解説します。
読み終える頃には、数字の変化だけに振り回されることなく、愛犬からの「お腹のメッセージ」を正しく受け取れるようになっているはずです。
【結論】犬のうんち回数に「正解」はない。重要なのは「普段との差」

「普通、犬のうんちは1日何回ですか?」
これは、診察室で私が最もよく聞かれる質問の一つです。ネットで検索すると「成犬は1日2回」といった数字が出てきますが、この数字に縛られすぎる必要はありません。なぜなら、犬の排便回数は、その子の「ライフステージ」や「個体差」によって大きく変動するものだからです。
まずは、一般的な目安を見てみましょう。
| ライフステージ | 平均的な回数 | 特徴と理由 |
| 子犬 (パピー) | 1日 5回〜 | 消化器官が未発達で、一度に溜めておけないため回数が多い。 |
| 成犬 | 1日 1〜3回 | 消化機能が安定し、食事回数+1回程度に落ち着くことが多い。 |
| 老犬 (シニア) | 不規則 | 筋力や括約筋の衰えにより、少量を頻繁に出すことがある。 |
いかがでしょうか? 子犬であれば1日5回以上も「正常」ですし、成犬でも食事量が多い子は3回以上することもあります。
ここで重要なのは、教科書的な平均値と比べることではありません。「その子にとっての普段(ベースライン)」と比較して、どれくらい急激な変化があったかです。
例えば、普段から1日3回する子が4回になっても、それは誤差の範囲かもしれません。しかし、普段きっちり朝晩2回の子が、急に1日4回・5回とトイレに行くようになった場合、それは何らかのサインである可能性が高くなります。
まずは「うちの子の普通」を思い出し、そこからの変化率に注目することから始めましょう。
なぜ増えた?病気以外で回数が変わる「4つの意外な理由」
「病気じゃないなら、どうして急に増えたの?」という疑問にお答えします。実は、病気以外にも排便回数に影響を与える要因(エンティティ)はたくさんあります。
特に、「食事の消化率」と「排便回数」には、消化率が高ければ高いほど便の量は減り、回数も減るという明確な反比例の関係があります。
病気を疑う前に、まずは以下の4つの原因に心当たりがないかチェックしてみてください。
1. フードを変えた(おやつの食べ過ぎ)
最近、フードの種類を変えませんでしたか? 低カロリーなダイエット用フードなどは、満腹感を出すために食物繊維が多く含まれています。繊維質は消化されずに便として排出されるため、繊維質の多い食事をとると、必然的に便の量と回数は増加します。 これは健康な反応ですので心配いりません。
2. 散歩や運動の刺激
散歩に行くと何度もポロポロとうんちをする子がいます。これは、運動によって腸の蠕動(ぜんどう)運動が物理的に刺激されるためです。1回の量が少なくても、元気でいい便であれば「マーキング」の一種と考えられます。
【UVP】1分で判定!病院に行くべきか迷った時の「3点チェックリスト」

さて、ここからが本題です。「様子を見ていいのか、すぐ病院に行くべきか」。その決断をするために、私が診療現場で実践している「3点観察法」を伝授します。
回数(数字)だけに囚われてはいけません。以下の3つの要素を組み合わせて判断してください。
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Number(回数の変化率): 普段より倍以上増えているか?
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Shape(便の形状): 形はあるか?掴める硬さか?
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Activity(元気・食欲): いつも通り遊ぶか?ご飯は食べるか?
この3つを掛け合わせた結果が、あなたの取るべき行動です。
✍️ 一言アドバイス
【結論】: 回数が増えても、「いい形のうんち」で「元気いっぱい」なら、まずは一晩様子を見ても大丈夫です。
なぜなら、多くの飼い主さんが「回数が増えた=下痢=病気」と結びつけがちですが、実はストレスや食べすぎによる一時的な腸の活発化であることが多いからです。ただし、「粘液が混ざっている(ゼリー状のものが付いている)」場合や「しぶり(出したそうに踏ん張るが出ない)」がある場合は、大腸炎や誤飲の可能性があります。 この場合は元気でも早めの受診をおすすめします。
特に注意すべき「ブリストル・スケール」との関係
便の状態を客観的に評価する「ブリストル・スケール」という指標があります。回数が1日4回、5回と増えていても、便のグレードが「掴める硬さ(グレード3〜4)」であれば緊急性は低いです。逆に、回数が普段通りでも「水っぽい(グレード6〜7)」なら緊急度は高くなります。
「回数」よりも「質(形状)」を優先して評価する。これを覚えておくだけで、心の余裕が全く違ってきます。
今日から自宅でできる!回数が増えた愛犬への「お腹のケア」
チェックリストの結果、「様子見OK(エリアA)」や「注意(エリアB)」だった場合、自宅でどのようなケアをすればよいでしょうか?
愛犬の腸を休ませ、正常なリズムに戻すためのステップをご紹介します。
ステップ1: 「プチ断食」または「減量」で腸を休める
排便回数が多いということは、腸がフル稼働で疲れている状態です。
成犬であれば、一食抜く(12時間程度の絶食)か、いつもの食事量を半分〜3分の2程度に減らして、腸への負担を物理的に減らしてあげましょう。
※子犬や持病のある子の絶食は低血糖のリスクがあるため、獣医師に相談してください。
ステップ2: 高消化性フードを活用する
もし手元にあれば、消化器サポート用の療法食や、ふやかしたフードを与えてください。先ほどお話しした通り、消化率の良い食事は便の量を減らす効果があります。消化の良い食事を与えることで、荒れた腸粘膜の回復をサポートできます。
ステップ3: 記録をつける
受診することになった場合に備えて、以下の情報をメモしておきましょう。獣医師として、これほど助かる情報はありません。
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何時から回数が増えたか?
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便の色と形(スマホで写真を撮るのがベストです!)
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前日に食べたもの(おやつ含む)
まとめ:数字に振り回されず、愛犬の「言葉」に耳を傾けよう
犬は「お腹が痛い」と言葉で伝えることができません。その代わり、排便の回数や状態で、体調の変化を私たちに必死に伝えてくれています。
今回のポイントをおさらいしましょう。
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排便回数に正解はない。「普段より急激に増えたか」を見る。
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回数増の原因は病気だけではない。食事やストレスも疑う。
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「回数 × 形 × 元気」の3点で判断すれば、迷いは消える。
「1日4回もしちゃった……」と落ち込む必要はありません。それは、愛犬の体の小さな変化に気づけた、あなたの愛情の結果です。
もし、3点チェックをしても判断に迷う場合や、あなたの直感で「何かがおかしい」と感じる場合は、迷わず動物病院に相談してください。獣医師は、そんな飼い主さんの「念のため」の来院を、決して迷惑だなんて思いませんから。
この記事が、あなたと愛犬の健やかな毎日の助けになることを願っています。
参考文献・出典
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家庭どうぶつ白書2023 – アニコム損害保険株式会社
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小動物臨床指針 – 日本獣医師会
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犬と猫の栄養学 – ロイヤルカナン ジャパン

